部門を問わない自由な発想と 自治体との連携で地域活性の光を灯す

大阪南部の泉北地域に位置する泉大津市。土佐日記にも登場する名勝地で、奈良時代には府中の外港として栄えた歴史と共に、国産毛布の9割以上を生産する「日本一の毛布のまち」としても知られています。そんなまちの魅力ある資源を活用し、地域活性化をめざす取り組みとして泉大津市とタカショーデジテックが連携。歴史的価値のある寺社仏閣や四季を感じられる公園などを中心に光の空間を創り、まちの魅力を発信していくこととなりました。今回はその第1弾として行った、泉穴師神社のライトアッププロジェクトについてお届けします。

泉大津の歴史と文化を広めたい

歴史的景観を残す情趣あふれる泉大津のまち。紀州街道の海側に並行して走る浜街道には江戸中期以降の町家建築が数多く残り、工場を象徴するのこぎり屋根や虫籠窓、厄除けの神様とされる鍾馗様が鎮座する屋根飾りなど、貴重な建築様式を見ることができます。ところが、こういった歴史的価値やまちの趣を知る人はそう多くありません。2025年に開催される大阪万博も控える中、もっと市内外への魅力発信を行なっていくために考えられたのが特別イベントの開催やライトアップ・イルミネーション装飾によるまち全体の活性化でした。
具体的には3つのフェーズで段階的な展開を計画。まずは市内の基軸を見据え、市民に認知してもらいやすい場所を選定し、市内の企業や商店と連携しながらのライトアップで基礎認知向上を狙います。その上で次のフェーズではそこを中心に徐々に点灯場所を増やし、点在するポイントを結ぶようにまち全体に回遊できる仕組みを作ります。決まった時季に定期的にライトアップを行うことで、季節の風物詩として浸透させ、外からの誘客へと繋げていければと考えました。

泉穴師神社の正面の様子
泉穴師神社の入り口の様子
泉穴師神社の本殿エリアの様子
泉穴師神社の倒木したご神木の様子

今回のライトアップ現場の泉穴師神社(右下:倒れてしまった御神木)

そして最初のライトアップポイントに選ばれたのが、泉穴師神社。夫婦の神様を祀る由緒ある神社で、市の天然記念物にも指定されているクスノキをはじめ、大木が茂る境内は「泉穴師神社の森」として大阪みどりの百選にも選ばれています。この「泉穴師神社の森」内には、ひときわ大きな御神木がそびえ立っていましたが、2018年の台風21号の被害で根っこから倒木してしまいました。倒れてしまった御神木は、推定樹齢600年。古くから泉穴師神社と共に生き、近所の学校の校歌にも登場するほど地元に愛され、歴史の証人だった大きなクスノキでした。一度は処分も検討されましたが、地域の関係者や泉大津市長を交えて議論を重ねられた結果、災害遺産として後世に残す決断をされたそうです。今回のライトアップでは、そんな御神木の魅力を引き出すのも課題の一つでした。


ワークショップでライトアップを計画

泉穴師神社でのワークショップに向かう社員の様子
泉穴師神社でのワークショップの説明を受ける社員の様子

泉穴師神社のライトアップに際し、タカショーデジテックでは社員たちが現場を深く知るためのワークショップを行いました。社内には営業や製造、管理部門など日頃ライティングデザイン(照明計画)や現場に携わっていないスタッフもいます。ですが、いずれの仕事も最終的に現場での光に繋がります。どの業務に携わっていても、現場を知り、タカショーデジテックのビジョン(社内理念)である『光の演出で人の心を彩る』を体感することは学びがあるはず。そして、その経験は必ず今後の商品開発や企画提案などさまざまな業務に生きてきます。そんな狙いから行ったワークショップでは、あえてさまざまな部門から参加者を募り異部門混合の4チームを結成。今回のライトアップ計画の概要や意図を共有するガイダンスの後に、現場リサーチや照射実験などを行い、それぞれの持ち場で光の設計を考案。その後、機材準備、設営と点灯確認まで、4回に分けてワークショップを行いました。
参加したのは営業部、管理部、製造部、CreativeLab.などの18人。それぞれ所属しているオフィスも違う面々が集まり、混成チームを結成。チームの個性を生かしながら、担当するエリアでいかに効果的に光を演出するか、それぞれに知恵を絞りました。

ライトアップ場所を検討している様子
実際の現場でライトアップの調整を検討している様子1
現場の写真を基にライトアップのイメージを考えている様子
実際の現場でライトアップの調整を検討している様子2

各チームでライトアップを検討している様子


試行錯誤の末に

泉穴師神社のライトアップワークショップAチームのメンバー

(左から)Aチームの野際さん、寺山さん、村田さん、加藤さん

大阪オフィスと本社の混成で編成したAチームが担当したのは、泉穴師神社のなかでもメインとなる本殿エリアでした。メンバーは大阪オフィス営業部の加藤恋さんと寺山真似さん、Creative Lab.ヴィジュアルコミュニケーションチームの村田雅さんと、本社Creative Lab.設計開発チームの野際拓海さんです。日頃はLEDサインの営業をしていたり、商品開発をしていたりと、ライティングデザインの現場に関わる機会はなかったことから「商品知識と現場の流れを説明できるようになりたい」「現場に対して使いづらい設計開発にならないよう現場での状態を知りたい」と意欲的にワークショップに臨みました。
その後、ライトアップさせる場所は決まったものの、どう光らせたいかの議論で意見が分かれたAチーム。ポイントは本殿の両サイドにある樹木を含め、いかに左右対称に照らせるか。また2つある鳥居の両方をくぐるというルートをいかにわかりやすくするか。
サインの営業をしている加藤さんは、打ち合わせ後に参考画像を探して見せ方を考えたそうですが「実際の現場で照らしてみると思うように光が当たらず、どうしていいかわからなかった」と、イメージと現場での違いを痛感したそう。また日頃商品開発に携わる野際さんは「定番のライトアップ方法しか知らなかったので、そこに当てはめるのに必死でした。でも2つの鳥居をくぐってもらえるよう、足元を照らすことを意識しました」と話します。

泉穴師神社のライトアップワークショップAチームのメンバーで試行錯誤している様子1
泉穴師神社のライトアップワークショップAチームのメンバーで試行錯誤している様子2

ライトアップを試行錯誤しているAチームの様子

特に苦労したのが両側の樹木の照らし方。寺山さんいわく「こだわってもこだわってもこれがベストというのはなかなかできない。2本の樹木の葉の密度の違いや枝の伸び方、根元の草の生え方が違うので、同じ置き方をしても左右対称に統一が取れない」。Aチームのメンバーそれぞれが悩み、ライティングデザインチームのメンバーたちにアドバイスももらいながら考え抜いた結果、きれいにライトアップさせることができました。ワークショップのタイミングはまだまだ残暑の厳しい時期だったこともあり、暑さや虫の対策にも体力・気力を消耗。その分最終の点灯確認をした時の嬉しさもひとしお。村田さんは「最初に思ったように『2つの鳥居が光って樹木が空間を広く照らす』が実現できたので達成感と感動がありました。私たちのチームが一番最後まで苦戦していたので、他のチームの方や地元の人たちにも喜んでもらえたのが嬉しかったです」と振り返って感想を聞かせてくれました。

話を聞かせてもらったAチームのメンバー

「思っていた以上に時間をかけて作り上げているのだと今回初めて知りました。これまで簡単に思っていましたが、現場に木がどう生えているのか、電気はどこから配線できるのか、経験しないとわからないことばかりで、今後はそういうことも調べて提案していきたい(寺山さん)」「設置する時にどう運ぶか、使いやすさや持ちやすさはどうかなど、デザインでカバーできることがもっとあるなと実感したので、今後に生かしたい(村田さん)」と、今回のワークショップではそれぞれが業務での課題を発見することができたようです。
この泉穴師神社の点灯は11月13日から令和7年1月11日まで実施予定。4チームが力を合わせたライトアップをぜひ現地でご覧になってみてください。
そして、今後の泉大津にもぜひご注目ください!

泉穴師神社のライトアップワークショップAチームのメンバーが仕上げた本殿エリアのライトアップ

Aチームのライトアップ
(本殿エリア)

泉穴師神社のライトアップワークショップCチームのメンバーが仕上げた倒木したご神木エリアのライトアップ

Cチームのライトアップ
(倒木した御神木エリア)

泉穴師神社のライトアップワークショップBチームのメンバーが仕上げた鳥居・石畳太鼓橋エリアのライトアップ

Bチームのライトアップ
(鳥居・石畳太鼓橋エリア)

泉穴師神社のライトアップワークショップDチームのメンバーが仕上げた穴師の森・ご神木エリアのライトアップ

Dチームのライトアップ
(穴師の森・御神木エリア)

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この記事を書いた人

CreativeLab.

『Creative Lab.』は、光を中心に屋外空間にイノベーションを起こすクリエイティブチームです。 デザインやアイデアで光の価値を創造するデザイン・企画チーム(AC)と、技術・開発で光の価値を創造する設計開発チーム(DC)で構成されています。 AC / DCで連携を取り、あらゆる屋外空間に合う光や価値を考え、新しくてワクワクする提案を行っています。

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