神様と地域への想いを光でつなぐ 桑名宗社 次代への歴史的大改修
荘厳で美しい神社建築。夜の帳が下りると静寂と共に一際神聖さを増すその姿は、ライトアップによってさらに幻想的に浮かび上がります。三重県桑名市では約1900年の歴史を誇る桑名の総鎮守「桑名宗社」が20年に一度の神宮式年遷宮・御樋代木(みひしろぎ)奉迎送行事に向け、戦後初の令和大改修工事を実施。タカショーデジテックがそのライティングデザインに携わらせていただきました。
桑名神社と中臣神社の2つの社を併せ持つ全国でも珍しい形の神社であり、「伊勢国の最初の神社」と言われる桑名宗社。その格調をいかに光で表現し、どのような意図でデザインしたのかなど、今回のライトアップに際しての話を、不破義人宮司(以降:不破宮司)とタカショーデジテックの古澤良祐代表(以降:古澤)、そして担当したライティングデザイナーの甲斐淳一(以降:甲斐)に伺いました。
戦後初の大改修工事を迎えて
―――桑名宗社について、改めてお伺いしたいです。
古澤:地元の方は春日神社さんって呼んでいるんですね。
不破宮司:そうなんです。正式には桑名神社と中臣神社なんですが、総称して桑名宗社か春日神社と呼ばれていますね。でも春日神社というのが実は桑名に3社あって、遠方から来る方がナビで入れると違うところに行くことがあるんです。桑名宗社と言うとここしかないので、外に対しては桑名宗社を名乗っています。
古澤:なるほど。とても重厚な楼門が印象的だったのですが、伊勢神宮とのご縁が深い歴史ある神社ということですよね。今回の改修工事も式年遷宮に関連するものだと伺いました。
不破宮司:はい、うちはお伊勢さんのお子様をお祀りしているということや「伊勢国」の神域に入って最初の神社ということで、御神木の管理もしているご縁があります。伊勢神宮の御神木となる木曽ヒノキは江戸時代には徳川の尾張藩が管理していたんです。尾張藩が管轄していた東海道の宿場、熱田から桑名までが海路で結ばれていたことから、ここで管理することになったんです。
古澤:ということは、この辺は木曽川、長良川、揖斐川が合流する場所なんですね。
不破宮司:そうなんです。東海道五十三次の重要な宿場であり、海路の要衝としても栄えた、交通や物流の拠点として歴史ある土地。そして、さまざまな意味を持つ神社でもあったのだと思います。

―――その歴史の中で改修も何度か行われてきたかと思います。特に今回はどういった部分に力を注がれたのでしょうか?
不破宮司:今回の改修のきっかけとなった御樋代木奉迎送行事は、伊勢神宮でもっとも重要な20年に一度の式年遷宮に際し、そのご用材「お祝木」を奉祝する一連の行事。今回はその大役に向け、誰もが過ごしやすい境内を目指して令和の大改修を計画しました。実は桑名の地は戦争で一度全部焼けてしまっているんです。本当に徹底的に焼かれて何もなくなってしまったところから、当時の人たちがその後約60年程で神社の形を整えてきた。でも60年かけて少しずつ作っているので統一性がないんです。1つの敷地の中に鉄筋もあって木造もある。でも建て替えはできないので、しっかりと道を整備して、境内の一体化を目指したというのが今回の改修のメインでした。
甲斐:光を取り入れようとなったのも境内を整えることの一環ということですね。
不破宮司:そうですね。加えて、ちょうどコロナ禍の時に参拝を分散させようと、夜の参拝を推奨したというのもあります。その時に寄贈の提灯を募ったら最初は100個ぐらいだったのが500ぐらいに増えていって、結果的に夜の参拝がすごく評判がよかった。これからの時代に夜という時間や「光」が大事なツールとなってくるなと感じました。
古澤:1日のうちの夜の時間ってすごく長いのに、なかなか使われてこなかったんですよね。海外では「ナイトタイムエコノミー」と言って夜という時間をすごく大事にしている。そこがコロナを経てようやく日本でも見直されるようになったんじゃないかと思っています。京都なんかまさにそうですよね。オーバーツーリズムで昼の人の流れをどうやって分散させるか。そうすると夜っていう時間がすごく大事になる。地方を出歩きたい場所にすることで新しい機会が生まれる。だから、日本全体でいま光に対して見直しが起こっているように感じています。
不破宮司:先代宮司だった父の引退によって私が宮司を継ぐこととなった当時は、地域がもっと過疎化していたんです。でも可能性はあると感じていました。時代に逆らってみたいし、まだまだやりたいことはある。そこからこの神社をどうしていきたいか、ある程度のプランを立てたんです。それが「30分程度滞在できる神社にしたい」。そのキーとなるのが「光」でした。

内から浮かび上がる光の楼門
―――そこからタカショーデジテックにはどのようにたどり着いたのでしょう?
不破宮司:とにかく自分でいろんなところを探していたんですよ
古澤:宮司がご自身で探されたんですか?
不破宮司:はい。自分で探して、いろんな神社を見に行ったりもしました。その時に、タカショーデジテックさんのカタログで旅館のライトアップを見る機会があり、いろんな演出パターンがあってわかりやすくていいなと思ったんです。
古澤:なるほど。旅館が掲載されたカタログですか。
不破宮司:値段をはっきり書いてくれていたのもよかったですね。やっぱり知らないところに発注って入り口が面倒で、見積もりを取るにしても、まだデザインも出来上がってないので説明をそれぞれにして…となると相見積もりも取りにくいし。そんな中で、これならイメージもできるし、大きく変わることはないのかなと…。
古澤:ありがとうございます。でもよく知らない会社じゃないですか。不安はなかったのでしょうか?
不破宮司: すみません、もちろんありました(笑)。なので、最初はお試しで楼門だけをお願いしたんですよね。
甲斐:第1期の工事ですね。
不破宮司:はい、まずは楼門を明るくしたいと。でもその時に甲斐さんに言われたのが「光を抑えましょう」だったんです。覚えていますか?
甲斐:もちろん覚えています。

不破宮司:こういうふうに抑えた方が陰影が浮かび上がってくるとコントラストの重要性を教えてもらって、おもしろいなと。それが決め手になって、タカショーデジテックさんにお願いしようと思いました。
甲斐:最初に希望されていたのが外からパーっと照らす「外照」という手法。でも中から照らす「内照」で後光が差すような荘厳な光が神社仏閣にはピッタリだと思っています。逆に外から光を照らすと影もそのまま出てしまう。
不破宮司:そのあたりの話を聞いて「やっぱりプロなんだ!」と感心しました。
甲斐:この手法の話をしたら一発オッケーで、正直驚きました。一般的に歴史的な建造物の場合、中に照明を入れるのは(電気を使う危険性もあって)嫌がられることが多いんです。あまりに即答だったので、やりたいのに「いいんですか!?」ってなりました。
不破宮司:納得さえできればよかったんです。質問に対して「ちょっと待ってください、確認します」ではなく、すぐに答えが返ってくる。それだけの経験をお持ちだし、暗い状態からどうなるのかわかりやすく教えてくれてイメージができました。
甲斐:本当に日本の建築には内照スタイルが合うのは間違いない。ただ歴史的建造物だからこそ釘が打てないという問題もあります。その点でもローボルトは危険性が少なく、釘を打たなくても固定できる器具もあるためあとからでも可動させやすいという利点がありました。
不破宮司: そう、釘は打たずにできるという部分もあり、安心してお任せできました。
甲斐:初めてのテスト点灯がちょうど年末で、たしか仕事納めの日だったんです。私は本社にいたので、名古屋の営業スタッフに来てもらって遠隔で点灯操作をしましたよね。
不破宮司:そうでしたね! お聞きした通り、楼門がすごく立体的に浮かび上がって嬉しかったです。その楼門の点灯から始まって、2期工事で参道に拝殿に…今は境内のほとんどと、外まで全体をライトアップしていただいています。
内照式で仕上げられた楼門のライトアップ
神域へと導く幻想的な主参道へ
―――宮司の気に入っている場所はありますか? 具体的にこだわったポイントをお聞かせください。
不破宮司:やはり主参道ですね。神様の前に行くまでの道を、雑念を削ぎながら無心で歩いていけるような、そういう感じの空間を光で表現していただきたかった。まっすぐ神様に向かって歩いていく中で光がポンポンポンと均等に入っていくのは綺麗ですし、自然と足が向かう道ができないかと考えていたんです。
甲斐:参道の光のあり方は私もこだわったところです。今の世の中、光のあり方もいろいろあります。そのストックの中から私自身も人を招き入れる灯りのとり方を考えていたんですが、提案するまでもなく不破宮司の方から「とにかく床を細い光で当てたい」というご要望でスケッチをいただいたんです。全国で神社のライティングは何度も経験がありますが、具体的なスケッチが出てくることはなかなかないのでこれも驚きました。
不破宮司:実は趣味が神社巡りなんです。とにかく神社が好きで、いろんな神社を見に行っています。特に東京大神宮が好きで、室内のライティングがすごくよかった。そこもちょっと暗めで、敷地が広いわけではないのに森があって光があって、自分の目指すべきモデルです。
ライトアップを見ながら語らう一同
甲斐:和の灯りも進化させていくことがすごく大事です。日本の建築に洋風の灯りをそのまま取り入れてもうまくいきません。そして、そこをサポートする僕らのような灯りづくりのスタッフがいても、灯りづくりの意見がカチッと合わないといいものはできない。不破宮司が光の大切さを理解しているからこそ、宮大工さんや電気工事屋さんといった地域の方々との繋がりと共に創り上げる事ができた空間だということを現場にいてすごく感じました。
古澤:やっぱり神社仏閣って昔からろうそくや月灯りといった「光」を大切にしていたと思うんです。でも日本ではそういった光の文化ってどんどん少なくなって、ただ明るい場所が増えてしまった。そんな中でも宮司はすごく感度を高くお持ちだなと思っています。高級感やこの神秘的で歴史的なものを表現するのに、この主参道はそれこそサバンナ効果(※)で中に入ろうと踏み出せる光ですよね。手前より奥が明るくて安心感が出るし、等間隔でリズミカルだからこそ歩きたくなったり写真を撮りたくなる光になったと思います。

―――苦労した部分はありましたか?
甲斐:計画中にどんどん石柱が増えていったことでしょうか。それだけ協力者が増えているということだから良いことなんですけど、図面がどんどん変わっていくんですよね。照明計画っていったん決めると(配線や配光の調整で)変更がけっこう大変なんですが、リアルタイムで対応していかないといけない。とはいえ、やっぱり出資してくれている方の大事な石や提灯。ピッチを広げてくれとは言いにくかったんですが、ダメかと思ったら宮司が「いいよ。必要なら広げよう」って快諾してくれたので助かりました。いろんな業者さんの間に入って、僕ら以上に宮司も大変だったと思います。
不破宮司:でもいいものを作るためには、「これは必要なんです」と言っていかないといいものができない。いい意味で遠慮せずどんどん伝えていただけてよかったです。
甲斐:ありがとうございます。最も美しく魅せることのできる位置の算出と指示に苦労はしましたが、高さを合わせるために石屋さんに別注で台座を製作いただくなどの協力もいただきながら、狙った通りの演出ができたと思っています。
※サバンナ効果…人は空間の奥が明るいと安心できるので進みやすくなり、空間の奥が暗いと不安が出てくるため、進みづらくなるという心理効果。
すべての光にこめられた想い
―――参拝に来られる方の反応はいかがでしょう?

不破宮司:地元の人は安心するって言ってくれていますね。きれいだし入りやすいとか、夜食事を終わらせた後に案内できる場所ができたとも。
古澤:桑名はせっかく歴史あるまちなので、こんな風に夜行けるところがあるといいですよね。
不破宮司:夜8時くらいでも子どもを連れてお参りにきてくれたら嬉しいですよね。10時で提灯の灯りは落ちますが、それ以外は朝まで明るく点灯しています。主参道以外も境内に照明がついたことでお賽銭泥棒も減りましたし、防犯面でもよいこと尽くしです。お祭りの日に参道でみんなが写真を撮ってるのを見ていいなぁと思いましたね。
古澤:光には「美観」と「機能性」と「防犯」と「安全」と「価値」がありますから(※)。その5つがフルに発揮されていますね。
不破宮司:まさにそうですよね。「30分程度滞在できる神社にしたい」と思った時に、敷地は広げられないし、看板をたくさん立てるのは嫌。じゃあどうするかですよね。神社は心地いい空間を感じてもらう場所だと思っています。由緒とかそんなのは後回しでいい。心地よさを作るには、光ってすごく大事なんです。たとえばろうそくの光って「非日常」。提灯もそう。8月に催している石取祭では提灯が何百個と灯りますが、この全てに神様が宿っているものにしないといけない。光に想いをこめると価値がグッと上がります。今回のライトアップでも見えないものに価値をつけていただいたと思っています。

※タカショーデジテックが掲げる光の5つの役割:「美観」「機能」「防犯」「安全」「価値」
―――実際にライティングされた境内を見ての感想をお聞かせください。
不破宮司:もうちょっとできるところはあったかもしれませんが、今できるベストかなと思っています。それに、これで終わりじゃない。また動かしながら、そのうちちょっと遊ぼうかなと考えています。
甲斐:年を重ねるに連れ、地域に根ざした灯りや地域貢献できる、歴史に残るとか、そういう心の拠り所になる光を大事にしたいと思っているので、宮司の協力でとてもいい灯りづくりができたと思っています。

不破宮司: 神社はまちの中心にあるべきだと思っているんです。まちづくりの拠点というか、サロンのような役割で、人が何気なく集って、行けば誰かがいるというような。いつか町中を灯りで繋いで活性化したいですね!
古澤:ということはどちらかというと地域の方に来ていただきたいということでしょうか?
不破宮司:最終的には地域の方でしょうか。でも外からいろんな方が来ていただいていい循環が生まれればと思っています。そのためにも空間づくりにますますこだわっていきたいと思います。
古澤:楽しみにしています。今日はありがとうございました。

今回の対談で紹介した楼門や主参道だけでなく、拝殿、本殿、そして拝殿を囲む参道から外壁や駐車場に至る全体をさまざまな光で照らした今回のライトアップ。歩く人の目線や場面に合わせた見え方など細部までを計算した灯りが趣ある神社の佇まいを静かに包み込みます。境内をぐるりと案内してもらうと、目に止まったのがちょうど美しい花をつけ始めた百日紅。聞くと、先々代の宮司であった祖父が植え、先代宮司が大事に育ててこられたものだそう。それを不破宮司がライトアップし、夜もその姿を愛でることができるようになったと感慨深く話してくださる姿が印象的でした。
名刀村正や本多忠勝の貴重な資料やユネスコ無形文化財に登録された石取祭など、数々の歴史や伝統とともに、光に照らされた社殿や境内の様子が訪れる人の心に残ってくれればと願っています。
Credit
照明ディレクター:甲斐淳一 / JUNICHI KAI
営業部 ライティングデザイングループ 兼
Creative Lab.DC
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