光がつなぐ想いと地域のかたち 美山中学校閉校とともにともる「未来への光」

和歌山県日高川町。山々に囲まれたこの地で、長く地域に寄り添ってきた美山中学校は、2026年の春、その役割を終えました。校庭に立つ大きなメタセコイヤは、これまでと変わらずこの場所を見守り続けています。その存在を新たなかたちで照らし出したのが、生徒たち自身の手でつくり上げた光の演出でした。今回の記事では、閉校という節目に行われたイベント「光の森のパビリオン ~美山を守る、あたたかな光~」を通して、生徒主体で設計されたライトアップの取り組みと、光が地域にもたらした新たな価値についてご紹介します。

「閉校」という
節目に生まれた問い

その土地の風景や文化に寄り添いながら、その魅力を引き立てる光を取り入れることで、昼とは異なる落ち着いた表情を夜に生み出し、地域の魅力を改めて発信できるのが光による演出の強みです。強く主張するライトアップではなく、歴史ある街並みや自然環境、ひいては地域と調和するように計画された光は、その場に“もともとあったかのように”溶け込み、訪れる人の記憶に自然と残る夜景をつくり出します。

自然豊かな美山中学校周辺の風景
自然豊かな美山中学校周辺の風景

美山中学校の閉校が決まる中、生徒の皆さんはその節目をどう受け止め、自分たちに何ができるかを模索していました。なかでも閉校とともに卒業を迎えた3年生は、学校生活の締めくくりに何かを残したいと考え、次第に地域との関わりへと目を向けるようになりました。日々を過ごしてきた学校は、学びの場であるとともに、地域とのつながりが自然と生まれる場所でもありました。その場所がひとつの終わりを迎えようとしているとき、「この場所との関係をどのように残していくか」という問いが、そんな3年生の中で少しずつ具体的なかたちを帯びていきました。
多くの人に美山の魅力を知ってもらうきっかけをつくりたい、美山で育った人たちにもう一度この場所に足を運んでもらいたい。その思いから生まれたのが、今回のプロジェクトです。

生徒主体でつくり上げた
光の演出とイベント

美山中学校の中心にそびえ立つメタセコイヤの木
美山中学校の中心にそびえ立つメタセコイヤの木

校庭に立つ約38mのメタセコイヤは、美山中学校を象徴する存在のひとつです。その木をきっかけに、人が集まる場をつくろうという考えが、このプロジェクトの出発点となりました。長く見慣れてきた風景の中にあるその一本の木を、あらためて「人に見てもらう存在」として捉え直したとき、どうすればこの場所に人が訪れ、足を止めてもらえるのかを考え続けた生徒たち。その想いを受けとめた先生が”光で照らす”という手法を見出し、タカショーデジテックのライトアップの取り組みにたどり着いたことが、わたしたちとの出会いとなりました。

生徒たちへのワークショップの様子①
生徒たちへのワークショップの様子②

生徒たちへのワークショップの様子

こうして、メタセコイヤのライトアップを軸に据えた企画が動き出しましたが、ただライトアップするだけでは、生徒が主体となって『美山の魅力を伝えていく』という目的に対して、取り組みとして弱いと考えました。そのなかでたどり着いたのが、生徒たち自身で光の魅力・活かし方をワークショップで学び、自分たちの想いを光で表現するという方法。タカショーデジテックとしては、ライティングデザイナーが実際に生徒たちにワークショップを実施し、光の効果や使い方を伝授しました。
ひとつの木をきっかけに生まれた発想は、やがて光と体験を組み合わせたイベントへと展開していき、人に来てもらうために何ができるのかを考え続けたプロセスそのものが、この取り組みの輪郭を形づくっていきました。

想いを灯した一日と
生徒たちの言葉

夕方の美山中学校のグラウンドの様子
夕方の美山中学校のグラウンドの様子
(写真:ひとのは)
ライトアップされたメタセコイヤ
ライトアップされたメタセコイヤ
(写真:ひとのは)

イベント当日は、想定を上回る来場者が訪れ、会場は昼の時間帯からにぎわいを見せていました。展示や体験ブースを通して美山に触れる時間が流れる中、夕方にかけて会場の空気は次第に変わっていきます。キャンプファイヤーの火が灯され、夜の始まりを告げる中、続いて竹灯籠の演出が広がっていきました。やわらかな明かりが並ぶ光景の中で、いよいよメタセコイヤのライトアップがスタート。昼間とは異なる表情を見せる空間の中で、生徒たちが設計した演出プログラムが順に披露されていきました。

メタセコイヤの気の点灯式(点灯前)
点灯式(点灯前)
メタセコイヤの気の点灯式(点灯後)
点灯式(点灯後)

それぞれの演出にあわせて、生徒たちがどのような思いで色を選び、どんな記憶を重ねたのかが語られていきます。光の変化とともに、その背景にある言葉が重なることで、会場全体に共有される体験となっていきました。そして夜空に花火が打ち上がり、イベントはクライマックスを迎えます。自分たちで考えた演出がかたちとなり、多くの人の前で表現される。その時間は、生徒たちにとっても、このプロジェクトを締めくくる象徴的な瞬間となっていました。

生徒たちが演出したメタセコイヤのライトアップ①
生徒たちが演出したメタセコイヤのライトアップ②
生徒たちが演出したメタセコイヤのライトアップ③

生徒たちが演出したメタセコイヤのライトアップ

イベントを終えた生徒たちは、大きな達成感を語っています。なかでも、全校で考えた色でメタセコイアをライトアップする企画は最も力を注いだ取り組みで、「実際に形となり、美しく輝く光景に感動した」という声が多く聞かれました。閉校という節目の年に地域のために何かを成し遂げたこの経験は、生徒一人ひとりにとって生涯忘れられない一歩となることでしょう。

今回の取り組みは、閉校という節目の中で行われたひとつのイベントでありながら、その役割はそれだけにとどまりません。光をきっかけに人が集まり、その場で地域に触れ、関わりが生まれていく。そうした流れが、ひとつのかたちとして実現されていました。特に印象的なのは、その中心に生徒たちがいたことです。与えられた企画ではなく、自分たちで考え、つくり上げた場だからこそ、多くの人の心に届くものとなりました。学校という場所は区切りを迎えましたが、そこで生まれた関わりや体験は、別のかたちで地域に残っていきます。わたしたちタカショーデジテックは、今回のように光を通じて人と人、人と地域がつながる場づくりに、今後も携わっていきたいと考えています。一本の木から始まった小さな問いが地域全体を照らす光へと広がっていったように、次のかたちもまた、誰かの想いから生まれていくのかもしれません。

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この記事を書いた人

編集長 しま

2020年新卒入社 / プロダクトデザインチーム所属 / DIGISPOT編集長 DIGISPOT創刊当初から編集長を務めつつ、屋外照明の商品企画も手掛ける二刀流社員。 専門である屋外照明以外に、LEDサイン・イルミネーションにも幅広く関わっている。 「文章に関わることなら『しま』」と言わんばかりに文章作成や校正の依頼が来る。 今はなきセンター試験の国語で満点を取ったことがあるとかないとか…

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