歴史を光で彩り、街を活性化させる “和歌山城 ~光の回廊~„のライトアップ演出

ナイトタイムエコノミーの創出を目指して

けやき大通りから見えるKEYAKI LIGHT PARADEのイルミネーションと和歌山城のライトアップ

2023年から和歌山県和歌山市で行われている“KEYAKI LIGHT PARADE by FeStA LuCe”。和歌山市の主要部であるJR和歌山駅前から西へと続く、けやき大通りを彩るイルミネーションイベントです。
今回ご紹介する“和歌山城 ~光の回廊〜”のきっかけは、実はこの“KEYAKI LIGHT PARADE”。イルミネーションの終着点となっている和歌山城にも観光客の皆さんに訪れてほしい、ナイトタイムエコノミー(※1)としても活用したい――そんな和歌山市からの想いから始まりました。
実際、“KEYAKI LIGHT PARADE”によってナイトタイムエコノミーは活性化しており、オープニングセレモニーや点灯式には多くの方が訪れるだけでなく、周辺の飲食店100店舗以上が協力店舗として参加。イルミネーションを楽しみに来た人々が、そうした店舗で食事を楽しみ、街ににぎわいをもたらしています。
こうした“KEYAKI LIGHT PARADE”によるナイトタイムエコノミーの広がりを受け、その効果を和歌山城にも波及させるべく、ライトアップの計画が立ち上がり、和歌山市による提案型プロポーザルを通じて採用され、実現に至ったのが今回のプロジェクトです。

2024年度のKEYAKI LIGHT PARADEの様子1
2024年度のKEYAKI LIGHT PARADEの様子2

KEYAKI LIGHT PARADEの様子

2024年度のKEYAKI LIGHT PARADE中のにぎわう街中の様子

にぎわう街中の様子

イルミネーションと和歌山城

イルミネーションと和歌山城

※1:「ナイトタイムエコノミー」とは、夜間の経済活動全般を指す言葉として、近年注目を集めています。具体的には、夜間の観光、飲食、エンターテインメント、医療、インフラなど、日没から日の出までの経済活動を指します。


街から和歌山城へ導線をつくるライティング

今回、光の演出を取り入れたエリアは、大きく分けて8ヶ所あります。
“KEYAKI LIGHT PARADE”の終着点付近であり、和歌山城内への入り口でもある大手門エリアや、春のお花見シーズンににぎわう桜回廊エリアをはじめ、和歌山城内の特徴あるスポットや、それらをつなぐ通りや散策路が対象となっています。
和歌山城は、桜の名所、観光スポット、イベントの会場、そして地元の方の散歩コースなど、さまざまな用途で親しまれている一方で、石垣や門など多くの文化的資産が残る歴史的な場所でもあります。今回は、そうした文化的資産を照らし出し、「夜ならでは」の表情や魅力を創出することで、「夜に訪れる価値」を感じていただけるような演出を行いました。
では実際に、光の演出へのこだわりが詰まった4つのエリアをメインにご紹介します。

けやき大通りから和歌山城への導線

和歌山城内への入り口となる大手門エリア

バウンドした光で照らされた大手門の様子

バウンドした光で照らされた大手門

側面が照らされた太鼓橋(一の橋)

側面が照らされた太鼓橋(一の橋)

和歌山城の正門にあたる大手門エリアでは、水面に光を一度バウンドさせてから壁面を照らすことで、水のゆらめきが反映された幻想的なライティングを実現。昼間には影になっていて見えてこない門の構造を引き立たせるため、夜になると門の構造を活かして軒天が浮かび上がるような演出も施しています。また、“KEYAKI LIGHT PARADE”側からの視認性を高めるため、太鼓橋(一の橋)の側面にも光を当て、ライトアップのスタート地点としての存在感が強調されるように演出しています。

樹木と石垣のライトアップで華やかに彩られた桜回廊エリア

カラーライティングされた樹木と桜回廊エリアを人々が行きかう様子

大手門をくぐると現れるのが、石垣と桜並木に囲まれた桜回廊エリア。右手に連なる石垣はライン状のライティングで照らし、リズムと奥行きのある印象に。足元には、和風ライト「冴(さえ)」の特注仕様として徳川家の家紋をあしらった照明を配置し、歴史的な背景も光で表現しています。一方、左手には春になると満開を迎える桜並木が広がっており、季節に合わせて色を変えるカラーライティングが華やかさを添えます。昼とは異なる、静けさのなかに息づく美しい夜の景色が広がります。

点灯初日に色とりどり光で特別演出された石垣の様子

点灯初日に色とりどり光で特別演出された石垣

徳川家

徳川家の家紋が入った特注仕様

奥行と安心感を演出する一中門跡(いっちゅうもんぜき)の石垣

奥へと誘導する一中門跡の石垣の演出

奥へと誘導する一中門跡の石垣の演出

一中門跡付近で実施された点灯式の様子

点灯式は一中門跡付近で実施

一中門跡(いっちゅうもんぜき)は、石垣にぐるりと囲まれた特別な空間。その特性を活かし、あえて光の密度を高くすることで、光に包まれるような印象をつくり出しました。桜回廊の突き当たりの石垣の麓には、先ほどもご紹介した「冴(さえ)」がろうそくのようにゆらぎ、印象的なフォトスポットに。また、奥に明かりがあることで心理的な安心感につながる“サバンナ効果”を活かすことができ、自然と来訪者を奥のエリアへと誘導する仕掛けになっています。



やさしい灯りとともに歩く石垣城壁散策路エリア

庭園に合わせた落ち着きのある石垣城壁散策路エリアの演出

庭園に合わせた落ち着きのある演出

間接光で照らされた石垣城壁散策路エリアの白壁

間接光で照らされた白壁

紅葉の名所・西之丸庭園を望む石垣城壁の散策路では、秋の紅葉シーズンだけでなく、通年で楽しめるようなライトアップを提案しました。石垣の演出は他エリアと同じく放射状の光で揃えつつ、全体をあたたかみのある電球色で統一。今回のライトアップ実施エリアでは唯一の白影のため、白壁部分には間接照明を使い、壁の白さや質感がやさしく浮かび上がるように照らしています。季節ごとの景観に自然になじみ、いつ訪れても心地よく過ごせる光の演出を目指しました。また、散策路沿いの竹垣には、少し高い位置に「冴(さえ)」を設置。歩く人の目線からは直接見えませんが、階段や高い場所から見下ろすと、竹垣の美しさが際立つように工夫しています。


陸だけでなく空にも光を灯す点灯式

点灯式で行われたドローンショーの様子

“和歌山城 ~光の回廊〜”の点灯式では、タカショーデジテックが提携する株式会社ドローンショー・ジャパンによる、400機のドローンを使った演出が行われました。和歌山城では初となるこのドローンショーでは、「虎伏城」の別名を持つ和歌山城にちなんだ虎の絵柄をはじめ、協賛企業のロゴや社名などが次々と夜空に描き出され、光と音によるダイナミックな演出で観光客を魅了しました。日頃からイベントが行われている西の丸広場には、この日も多くの来場者が詰めかけ、会場は大きなにぎわいに包まれました。

夜空にドローンによって描かれた光の演出1
夜空にドローンによって描かれた光の演出2

夜空にドローンによって描かれた光の演出


主な使用器具

※自社製品の他にも、光の演出に最適な照明器具を選びご提案いたします。


和歌山市主催で「ナイトタイムエコノミーの創出」という目的のもと始まった“和歌山城 ~光の回廊~”。けやき大通りのイルミネーション「KEYAKI LIGHT PARADE」から和歌山城へと光の流れをつなぎ、夜のまち歩きや観光に新たな価値をもたらす取り組みとなりました。
城内では、大手門や桜回廊、一中門跡、石垣城壁散策路など、各エリアの特徴を生かした光の演出が施され、文化資源の魅力を夜ならではの表情で引き出しています。さらに点灯初日には、和歌山城初のドローンショーも実施され、訪れた多くの人々の記憶に残る夜となりました。
“和歌山城 ~光の回廊〜”は、これからも和歌山の夜の新たな楽しみ方を広げていく存在として、地域に寄り添いながら輝き続けていきます。

Credit

照明ディレクター:山下匡紀 / MASAKI YAMASHITA

営業部 ライティングデザイングループ 兼
Creative Lab.AC  東京オフィス
マネージャー

武蔵野美術大学 非常勤講師
富山市景観まちづくりアドバイザー

2015年度グッドデザイン賞 復興デザイン受賞
2018年度グッドデザイン賞100 受賞
2022年度日本空間デザイン賞 LongList(入選)

照明ディレクター:花田 諒 / RYO HANADA
株式会社タカショーデジテック
営業部  ライティングデザインチーム 兼
Creative Lab. AC/DC マネージャー

日本空間デザイン賞2023 銅賞・サスティナブル空間賞
第57回日本サインデザイン賞 銅賞
iFデザインアワード2024 受賞

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この記事を書いた人

CreativeLab.

『Creative Lab.』は、光を中心に屋外空間にイノベーションを起こすクリエイティブチームです。 デザインやアイデアで光の価値を創造するデザイン・企画チーム(AC)と、技術・開発で光の価値を創造する設計開発チーム(DC)で構成されています。 AC / DCで連携を取り、あらゆる屋外空間に合う光や価値を考え、新しくてワクワクする提案を行っています。

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