神話の里・高千穂の夜に新たな光のアプローチを

宮崎県北部に位置する高千穂町は、日本神話の舞台として知られる“神話の里”です。なかでも高千穂神社は、地域の祈りとともに歩んできた象徴的な存在であり、境内では代々受け継がれてきた夜神楽が奉納されています。一方で、夜の神社は昼間とは異なる表情を見せます。既存の照明によって安全性は確保されているものの、境内全体としては奥行きや立体感が十分に感じられない場面もありました。夜間に訪れる方々が、より自然に、より心地よくこの場所の魅力を体感できる環境づくりが求められていました。本取り組みは、補助金制度も活用しながら実施されたものです。目的は、単に明るさを加えることではありません。高千穂という土地が本来持つ静けさや神聖さを損なうことなく、夜の境内に宿る気配を丁寧に可視化すること。光によって地域資産の価値をそっと引き出す設計が試みられました。
高千穂神社の境内の様子
夜の静寂に寄り添う光のバランス設計

境内にはもともと灯籠や外灯が設置されており、参拝に必要な明るさは確保されています。しかし、夜の空間として見たとき、光の強い部分と暗がりとのコントラストが大きく、森や建築が本来持つ奥行きや立体感が十分に感じられない場面もありました。そこで今回の設計では、単純に光を足すのではなく、空間全体の“バランス”を整えることを重視しました。安全性を支える光はそのままに、空気感を形づくるための光を丁寧に重ねていきます。森と建築、光と影が自然につながる関係性を再構築することで、夜の境内に静かな奥行きを生み出しました。神社という場において、過度な演出はふさわしくありません。樹木を強く照らせば瞬時にイベント的な印象が生まれ、神聖な静けさは失われてしまうだけでなく、イベント期間が終了した後にギャップを感じやすくなってしまいます。そのため、意識したのは“照らしすぎない”という姿勢でした。陰影を残し、暗がりを尊重することで、光そのものが主張するのではなく、空間の魅力が自然に立ち上がる状態を目指しました。夜の静寂に呼応する光のあり方が、この取り組みの核となっています。
空間の随所に宿る光の構成
鳥居 ― 森の息づかいを感じるアプローチ
境内入口の鳥居は、聖域への入り口となる象徴的な存在です。ここでは鳥居単体を強調するのではなく、周囲の立木も含めて光を構成しました。背後の森にほのかな明るさを与えることで奥行きを生み出し、空間全体に荘厳さをもたらしています。鳥居の先に見える参道に取り入れられた光も、間接的に鳥居の存在感を演出しています。
手水舎 ― 光源を見せない包み込む明るさ
本殿に向かうまでの途中にある手水舎では、天井面をスポットライトで照射し、その反射光で空間をやわらかく包み込む手法を採用しました。直接光源が視界に入らない位置に照明器具を設置することで、眩しさを抑えながら必要な明るさを確保しています。水面や木組みの質感が穏やかに浮かび上がり、参拝前のひとときを静かに支える光の演出に仕上がりました。
階段と両側の樹々 ― 神域へと導く光のバランス
本殿へと続く階段は、空間の印象を決定づける重要な動線です。ここでは足元だけを強調するのではなく、両側に立つ樹々を含めた空間全体のバランスを意識して光を構成しました。強く照らすのではなく、樹々の存在をほのかに感じられる明るさに留めることで、奥へと続く気配を演出しています。光の強弱を連続させるのではなく、あえて陰影を残すことで、神域へと導かれるような静かなリズムを生み出しました。また、頭上を覆うほど生い茂っている樹冠を活かし、幹だけでなく葉っぱにも光をあえてもらすことで頭上からの明るさも確保しています。
本殿 ― 静けさの中に輪郭が佇む演出
境内の中心である本殿は、あえて正面から強く照らす方法を取っていません。神聖さを光量で示すのではなく、光と陰のバランスの中で描き出す、その考えから、本殿背後に広がる社寺林にやわらかな光を当てる構成としています。背後の樹々がほのかに照らされることで、手前にある本殿の屋根の輪郭が陰となって浮かび上がる演出です。すべてを明るく見せるのではなく、あえて闇を残す。その余白が、夜の本殿に静かな緊張感をもたらします。また、今回はイベント期間中のみの設置だったため、後付けで照明器具を設置しています。その際に課題となったのが、眩しさの抑制と安全面への配慮でした。光源が直接視界に入らないよう、地元の大工さんたちの手によって専用の木枠を新たに製作していただきました。光を整えるだけでなく、景観を守り、参拝者の体験を損なわないこと。本殿の照明には、そうした配慮も織り込まれています。
神聖な樹木 ― 象徴性を描き出す光
境内には、祈りの対象として大切にされてきた樹木が点在しています。階段を上がってすぐ左に佇む大杉、そして並び立つ夫婦杉。それぞれが、この場所の歴史と信仰を体現する存在です。これらの樹木には、空間全体の光の抑制とは対照的に、存在感がきちんと伝わる照明を施しました。全体を均一に照らすのではなく、輪郭や質感が際立つように光を配置することで、暗がりの中に象徴的なシルエットを浮かび上がらせています。しめ縄もその光の中に浮かび上がるように照射位置を調整し、樹木と一体となった厳かな景観を形づくりました。
鎮石 ― 気配を可視化する光
境内の奥に位置する鎮石は、意図して訪れる方でなければなかなか気づきにくい存在です。そこで周囲の木柵に小型でバンド取付が可能なDIA-30 ツリースポットライトを設置し、鎮石の気配を示しました。小型の灯具で照射することで強く主張するのではなく、「何かがある」と感じさせる程度の明るさに留め、自然な誘導を生んでいます。光は目印でありながら、あくまで空間の一部として溶け込む設計としました。
主な使用器具
※本件はレンタルでの器具提供のため、使用器具はすでに廃番のものもございます。ご注意ください。
※自社製品の他にも、光の演出に最適な照明器具を選びご提案いたします。
光は、ただ空間を明るくするためのものではありません。ときにはあえて闇を残し、奥行きをつくり、その場にふさわしい静けさを整えるものでもあります。鳥居から本殿へ、そしてそこに至るまでの階段、樹木、そして社寺林というさまざまな要素に重なる光のレイヤーが、夜の境内に新たな表情を与えました。強く主張するのではなく、そっと寄り添う。この場所が本来持っている空気を損なわないことを何より大切にした、光の設計です。このように、期間限定の演出であっても、場の本質を損なわない光の設計が可能です。その土地に眠っている文化や資源を、光で演出してみませんか?
Credit
照明ディレクター:山下匡紀 / MASAKI YAMASHITA
営業部 ライティングデザイングループ 兼
Creative Lab.AC 東京オフィス
マネージャー
武蔵野美術大学 非常勤講師
富山市景観まちづくりアドバイザー
2015年度グッドデザイン賞 復興デザイン受賞
2018年度グッドデザイン賞100 受賞
2022年度日本空間デザイン賞 LongList(入選
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高千穂神社
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