天高く伸びる光のツリーに希望をのせて 廃校のシンボルツリーから届けるメッセージ

紀伊半島西海岸のほぼ中央に位置する印南町。海岸沿いから山間部まで東西に広がる町の東北部にある「真妻」地域。高級わさびで知られる真妻わさびの発祥の地、そして、中山間地特有の過疎化が進む地域のひとつです。少子高齢化に伴い廃校になった旧真妻小学校の校舎脇にあるメタセコイアをライトアップしたいという相談を受け、ツリーイルミネーションを施したのが2019年のこと。そこから改良を加え、このたび新たにライトアッププロジェクトを開始しました。

今回は真妻の地域活性に向けて活動を行う地元団体「真妻やまびこ塾」の山本育男塾長とタカショーデジテック代表取締役社長の古澤がツリーを前に地域活性化への想いと光について対談しました。

廃校の校庭にクリスマスツリーを!

古澤:ここが廃校になったのはいつ頃なんですか?

山本さん:2009年ですね。この真妻地区には真妻小学校と少し上流の上洞小学校という2つの学校があったんですけど、今は下流の学校と統合されて、両校が廃校になってしまいました。

古澤:山本さんもここの卒業生ですか?

山本さん:はい。この校舎も講堂もメタセコイアの木も、6年間親しんできた頃からほとんど変わりがないですね。

古澤:でも当時とは大きさは変わってるんじゃないですか?

山本さん:3階の屋根くらいだったのかな。でも小学生の記憶なので怪しいですね。探したら写真はあるかもしれません。

古澤: どれぐらい育っているのかなと思ったんです。メタセコイアって大きくなる木じゃないですか。

山本さん:そうですね。戦後、小学校などに種を配布されたそうで、学校には多い木なんです。ただまぁこれほどの大木はそうないと思います。

古澤:本当にそうですよね。今回ここまで大きなものを照らすというのが僕らのひとつの目的というかタスクだったんです。

山本さん:これ(メタセコイア)に、30年ぐらい前にPTAで学校を盛り上げようと工事用のチューブライトをつけて、クリスマスツリーを作ったんです。工事現場で見るような赤いホースでチカチカするやつです。地元の電気屋さんが上まで上がって巻き付けて、それが毎年12月の恒例行事になって、廃校になってからも10年間続けてきました。

古澤:まちの業者さんや地域の人たちで協力してとにかく光らせてきたというわけですね。人が集まったりもしていたんですか?

山本さん:そうですね。恒例になっていたんで、今年もやるんでしょ?とプレッシャーみたいなものがありましたね。いつも12月の第1日曜ぐらいからお正月明けまで。都会に出ている人が多いので、クリスマスが終わってからもしばらく点灯するようにしてました。

古澤:でも30年ってことは、それこそいま30歳になった子たちがずっと見てきたってことですよね。いまこの町を離れた子たちにも、冬になったらこの真妻のメタセコイアはライトアップされているというのが残ってるんですね。

山本さん:そうです。それで廃校してからも継続しようっていう想いだけで残してきたんですけど、2019年にもうちょっとバージョンアップできないかという話になって、印南町のまちづくり基金に応募させていただいたんです。

古澤:そこで、我々の共通の知人であるAさんと繋がったってことですよね。

山本さん:はい、基金が採択されて、具体的な事業のサポートをAさんにお願いしていた中で、タカショーデジテックさんのお名前が出てきたんです。当初、失礼ながらタカショーデジテックさんを知らなかったんですけど、調べると本当にいろんな事業をされている有名な会社なんだと知りました。それで、無茶を承知でご協力のお願いに伺ったんです。

世代を越えた地域への想い

古澤:実は山本さんたちが会社に来られる前から、こんな想いをもっている人たちがいるとAさんに話を聞いていたんです。ちょうどその頃に僕たちも和歌山に人を集めたいという同じような想いでフェスタ・ルーチェっていうイベントをやっていたんですよね。なので、1つ条件としてフェスタ・ルーチェのサテライトという形を取らせてもらえるのであれば我々としては喜んでお引き受けしますと答えたんです。ただ、Aさんはそれを伝えていなかったんですよね。だから、皆さんがうちの会社にきた時に、若い子も含めて一生懸命プレゼンしてくれて、どうだろう、協力してもらえるんかな、いくらかかるんだろうってプレッシャーを感じているのがわかりました。でも僕とAさんの中では既に決まってたんですよね。

山本さん:その話は今初めて聞きました! Aさんからは、多分協力してくれると思うので、とにかく一度行ってみませんかと言われて伺ったんです。私も塾長をやっているのでやまびこ塾の資金力もわかっていますし、補助金の額もわかっています。それに補助金はこういうハード事業にはなかなか使えない部分がある。社長に「やりましょう」とは言っていただけましたけど、カタログを見ているとすごいのがいっぱい出てきて、話がどんどん盛り上がるけれども「すみません、私たちの資金力では到底できません。本当に有難いですがお断りいたします」とお伝えしたんですよね。そしたら、「こちらで全部やります」と言ってくださって。

古澤:そうでしたね。その時に若い子たちが話したこれをやりたい理由に、東京や大阪や都会に行ってしまった友達がお盆に帰るタイミングに、みんなが集まれる場所を作りたいっていう想いに共感したんです。その場所で何すんの?て聞いたら、昔卒業した子たちの写真をプロジェクションマッピングで映して、お菓子やジュースでわいわい語りたいということだったので「どうぞ、その資金はそっちに使ってください」っていう話をさせていただきました。

山本さん:もともと約30年前に山村活性化のために行政が主導になってできた組織があって、途中からそれを引き継ぐ形でできたのが今の真妻やまびこ塾なんです。30年経って60代ぐらいの僕ら親父世代ばかりだったのを、次の子ども世代も一緒に活動していきませんかという話になって、2つの世代が一緒に進めた企画でした。なかなか若い世代と話す機会は少なかったんですけど、一つの目標に向かって意見交換するいい機会になりました。私自身も息子と議論を交わしました。

2019年のイベントTシャツは、INAMIの文字のNとIを薄くすることで「I AM」
の文字が浮かび上がり、自分たちの地元に誇りを示すデザインになっています。

古澤:あの点灯式の日に「こんなにいるんだ」ってくらい子どもがたくさんいましたよね。みんな本当にこのために帰ってきてくれたんだなと感じました。

山本さん:このグラウンドにぎっしり400名。あちこちでミニ同窓会のようなものができていましたね。なかなかそんなふうに集まる機会がなかったので、すごく喜んでもらえました。

古澤:移住定住はいきなり難しいと思うけれども、関係人口を増やしていくっていうにはこういう光のイベントを通して、こんな人たちが住んでいるまちなんだと知ってもらうのが重要なんだなという気がしました。

灯さなくてはいけない場所

古澤:やっぱりあかりが少ないところにこれがあると安心できるし勇気づけられますよね。

山本さん:本当に、御坊の方から帰ってきた時に、カーブを曲がるとこの木が見えてほっとするんです。

古澤:僕らも常々光の力ってすごいなって仕事をしながら感じています。

山本さん:このイルミネーションには2つの想いがあって、地域に残っている私たちや子どもたちが1つ誇れるものを作りたいということ。それと、この地区から県外へ出てしまった子たちがお盆や正月に帰ってきた時に30年前からあるツリーのイルミネーションが進化して自分たちの生まれ育った故郷が光り輝いているのを見てほしいということでした。実際、2019年のイルミネーションの点灯期間は、町内の方だけでなく毎日どなたかが写真を撮りにきているという状況で、光でこんなに人を集めることができるんだと強く感じました。

古澤:僕らもよく言ってるんですが「光の演出で人の心を彩る」というのが我々のビジョンで、人々の喜びや幸せに繋がっていけるような仕事をしていこうと我々全員が考えているんです。もう1つ僕らの存在価値として「今ある光の入れ替えではなく、今暗いところに光を灯す仕事を」というのをすごく重要視しています。照明メーカーってなると、パナソニックさんとかコイズミさんとかいっぱい大手がありますけど、そこと同じ土俵で「うちの商品の方が安いですよ、機能性がいいですよ、取り付けやすいですよ」というような商売をするのではないんです。予算もない中で光らせたいとなると、普通のメーカーなら断られると思うんです。でも、今暗いところは何らかの理由があって暗い。まさしくここがそうですよね。それはお金の問題だけじゃなくて、どうしていいかわからないとか、電気代がかさむんじゃないかとか、虫が来るんじゃないかっていういろんなネガティブな要因がある。そんな風な理由があってライトが灯せなくて暗いところに光を灯すというのが我々の仕事なんです。だから、ここはまさに「灯さなきゃいけないところだ」と思いました。

山本さん:今年のお盆にイベントをしたくてAさんにライトアップなんとかしたいと相談したところ、急がなくても今回はライトアップなしでイベントしませんかと言われたんです。でも私たちはライトアップなしにはイベントはできませんとお伝えして、今回のライトアップが実現したんです。ライトアップは譲れませんでした。

古澤:そうだったんですか。今度は逆にそれを知らなかったですね。2019年の時には一番上までイルミネーションをつけたかったんですけど、高所作業車でも届かない高さだったんです。鳶職の人によじ登ってもらっても結局一番高いところで上から3mくらいのところにしか点けられなかった。で、それだけだと寂しいから下に少しアップライトを入れてやったんです。だから、僕としてはキレイなんですけど、一番上までいけなかったことがちょっと心残りだったんです。

山本さん:フェスタ・ルーチェのサテライトで盛り上がって、よし次ってなって、自分たちでも素人なりに考えていた中で、コロナで動けなくなった。でもいつまでもコロナコロナと言ってられんので、夏のイベントを企画したんですけど、結果的にまた感染者数が増えたことで断念せざるを得ませんでした。でも12月のクリスマスイベントには必ず点灯しようと思っています。今回のリニューアルでは、真妻の四季折々の自然を伝えさせていただいて、それにマッチするようなライトアップをお願いしたんですよね。それで6つのバージョンを作っていただいて、期待以上のものになりました。

地元×デザインのこだわりで生まれたライトアップツリー

古澤:最初は皆さんイルミネーションを巻きたいという想いが強すぎていろんなアイデアを持ってきてくれたんですよね。でもさすがに大変だし、まだまだ木の成長に合わせていかないといけない。常設するとなると、直接巻くよりも前回心残りだった「一番上までしっかり照らす」ことを実現して、この木の大きさから昔を思い出してもらったり、安心や勇気を感じてもらえるといいなと思ったんです。使っているのはLEDの投光器で、今回の真妻のために特別に取り寄せたものです。奥の2台(配置図内①②)は30度の広いビーム角で全体を照らします。そして周りの4つの光(配置図内③~⑥)は8度のビーム角で、幅が狭くて遠くまで光を届ける。その6台で、この木のシルエットをしっかり出すことと、光を無駄に周りに拡散させず、この木だけを上までシューティングすることに集中しました。だから、うちのライティングデザインチームが訪れての設置にも時間がかかったと思います。

山本さん:はい、1時間ぐらいで終わると思ってやまびこのメンバーも集まっていたんですがいつまでも終わらなくて、やっと終わって完成したのかなと思っていたら次の日にまた調整して、一度帰られたかと思ったら1人の方がまた夜になって調整に来られた。

古澤:僕らのあるあるです(笑)。ライトの好きなメンバーが集まっている会社なので、点けたときに感動してもらいたいし、さっき話したビジョンを全員がわかって、そのために動いていることが、うちの会社の強みなんです。美観や安全や防犯や価値に繋がっていく仕事なので、すごくやりがいを感じてくれているんだと思っていますし、照明器具だけを購入されるなら僕らから買っていただかなくてもいい。でも僕らが関わることで、照らすものへの想いをすごく大事にしています。

山本さん:本当に徹底されていることに感心しました。それと前回高所作業車でも届かなかったあの高い部分まで光が届いているのを見て、2度驚きました! 大きなこの木にこだわってきたので、従来やっていたチューブライトの時も大木を表していると結構自慢に思っていたんですが、今回の6台のライトアップでさらに想いが強まりました。

古澤:イベントだけで楽しむのではなく、上がってきたら絶えずシンボルの木が光っている場所を作りたいというご要望だったので、みんなが光から季節も感じることができたらいいなという思いで、周辺の自然と共にその木を見たら季節が感じられるように、「春」「夏」「秋」「冬」の4つの光をプログラムしました。加えてクリスマスは重要視されてきたものなので、「クリスマスカラー」として、ウキウキする光を。そしてもう1つは季節や行事に左右されない「モミの木カラー」で、光で緑が少し揺らいで見えるように。このバリエーションを季節やイベントに応じて変えてもらうことでやまびこ塾からのメッセージとしていけば、地元の人はもちろん、よそから来た人にも「なんかすごい木があるぞ」と思ってもらえるフォーカルポイントになるんじゃないかと思っています。

パターン:クリスマス
パターン:春
パターン:夏
パターン:モミの木
パターン:秋
パターン:冬

山本さん:過疎化の村にこれだけの自慢できるものができたというのが本当に嬉しいですね。印南町といえばかえる橋で知られる「かえるの町」と言われていますが、これからは印南町の真妻といえば光る木のあるところと言ってもらえる「かえるの町の光のあるところが真妻」として知ってもらえたら最高です。

真妻やまびこ塾の初代塾長でもある日浦印南町長も来てくれました。

〈真妻やまびこ塾について〉

人口減少問題に捉われず、自分たちの住む地域を魅力的なものにしたいという想いで地域活性に取り組む真妻地域の地元有志団体。「観光で訪れたい地域」である前に「暮らしたい地域」として自分たちで地域の魅力を作ることを目指しています。


過疎化の問題は日本の各地で抱える大きな課題。その中でも自分たちの地域を魅力的にするために親父世代と子ども世代が一緒になって一生懸命になる姿勢は見ていて本当にかっこいいものです。広い空に向けて、大きな光のツリーが浮かび上がる幻想的な姿は、彼らの覚悟と希望の象徴のように感じました。光の持つ力がこういう方たちを応援できることは、私たちにとっても嬉しいことです。

次に光るのは12月の予定ですが、その後定期的にライトアップされる真妻のツリー。ぜひ機会があればドライブがてら周辺の自然の美しさと併せて楽しんでみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

CreativeLab.

『Creative Lab.』は、光を中心に屋外空間にイノベーションを起こすクリエイティブチームです。 デザインやアイデアで光の価値を創造するデザイン・企画チーム(AC)と、技術・開発で光の価値を創造する設計開発チーム(DC)で構成されています。 AC / DCで連携を取り、あらゆる屋外空間に合う光や価値を考え、新しくてワクワクする提案を行っています。

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