建築目線で環境に寄り添う照明とは 空間を生かす建築と照明のデザインコラボ
建築には照明計画が付き物です。そして、その計画を光を知り尽くしたプロが手がけることで、さまざまな新しい価値が生まれると私たちは思っています。日頃から建築現場に関わることが多いタカショーデジテックですが、今回は空間の設計段階から照明監修としてデザインに携わった一例として富山市にオープンした「トヨタモビリティ富山 双代町EVステーション」をご紹介します。設計を手がけた本瀬齋田建築設計事務所の齋田武亨さんと、ライティングデザインを手がけたタカショーデジテックライティングデザインチームの山下匡紀の対談の様子をお届けします。
富山が結んだ2人の出会い
山下:斎田さんと初めてお会いしてからもう10年くらいでしょうか? 僕が前々職で富山に単身赴任でいた時に、アメイジングナイトという街中の活性化イベントで出会ったのが一番最初でしたよね。
齋田さん:たしか2015年です。富山市の大手モールで、山下さんが継続して関わられていた景観づくりのプロジェクトに、私が「おおてよるあそび」というイベントの会場構成として入って出会ったんです。ちょうど独立直後だったので、今の事務所の草創期から山下さんと一緒に仕事していることになります。一番最初の出会いとしては悔しかったのを覚えています。
山下:え? 悔しいってなんですか?
齋田さん:我々建築設計者は建築のデザインでは派手な照明より落ち着いた日常寄りの照明を提案する方が多いんですが、この時はイベントの会場構成だったので、派手な光や強い光を盛り込んだ配置を提案したんです。それに対して、山下さんは年間通しての景観をよくするための照明デザイナーとして入っておられたので、本来私がやりたかったような提案をされて、周りの人が「山下さんのすげーかっこいいじゃん」ってなって、悔しいというか、羨ましいなと思って見ていた記憶があります(笑)。
山下: それは初耳です。なんか語弊があるかもしれないけれど、すみません(笑)。
齋田さん:その時山下さんが行っていたワークショップにも住民の1人として参加していて、山下さんの照明に関する考え方を聞いて何か一緒にできたらいいなと思ったんです。あの後ちょうど大手モールに面するカフェのデザインを一緒にすることになって、そこからよく一緒に仕事するようになったのを覚えています。
山下:僕は逆に齋田さんが建築家と思えない新しい要素や視点からすごく斬新なアイデアを出してくださるので、こういう建築家さんがいらっしゃるんだ!と衝撃を受けたというのが第一印象でした。前職で隈研吾さんの建築事務所におられたので、そのエッセンスもありながら、齋田さん自身のブランド力や構成力がおもしろくて、とんでくるものに対してこうしたらどうだろうと最初からキャッチボールさせてもらえていたというのがありますよね。
齋田さん:都会にあるカフェと違って、周りに灯りが少ない場所だったので、カフェのインテリアの照明と街路の光を、一緒の規模感で考えられたらという、ワークショップで山下さんが語られていたアイデアを取り入れて一緒に照明デザインをしたのが、「コンパクトデリ」というカフェでした。
山下: そうですね。この時も齋田さんがほぼほぼ図面を引いて材料も用意してくださっていましたよね。駆け出しの建築事務所としてもすごく勢いがあって、いろんなことに取り組んでいらっしゃるのに共感しました。
齋田さん:でもそれよりいいものを見つけてきてくださいました。地方は設備設計の知識が少ないのが弱点。特に照明設計に特化した知識をもった人を探していて、かつ富山の良さをわかっておられる方ならより良いなと思っている中で、山下さんといいご縁があった。本当に幸運だったなと思っています。
山下: ありがとうございます。
齋田さん:そんな山下さんがエクステリアの建材とかの知識・ノウハウがあるタカショーデジテックさんで活動をしていくとなったので、多分今までの山下さん個人としての提案よりもデザインの幅が広がるだろうという期待がありました。
齋田さんと山下が手掛けた「コンパクトデリ」
建築に新たな価値をもたらす光を
山下:そもそも、建築する側にとって照明ってどんな存在でしょうか?
齋田さん:照明メーカーさんを前に言うのもあれなんですが、建築のデザインを考えたい人は、自分の空間に対して、設備器具がついてしまうこと自体が余計と考え、照明器具はなければない方がいいと考える人が多いんじゃないかと思います。そうは言っても必要なのでどうしていくかを考える時に、山下さんはこういうふうに光を取り入れたら邪魔にならないんじゃないかとか、ディテールをどうしたらいいかとか、初期段階からキャッチボールをしてくださるので、その中で解決できている部分があるなと思っています。
山下: 今回の双代町EVステーションでもわりと初期から関わらせていただきましたよね。
齋田さん:はい、本当に初期からお願いしました。
山下: EVステーションという電気自動車の充電のための施設ですけど、これって元々どういう位置付けで発信されたんでしたっけ? 充電ステーションという非常に先進的な場所だけど、環境に配慮して、寛ぐ場所みたいな感じだったかなと。
齋田さん:そうですね。富山で盛んな水力発電の電気を使った再生可能電力での電気自動車の充電ステーションとしてだけでなく、車のある生活がどう環境に寄り添っていくのかを発信していけるショールームにできたらいいねというスタートでした。
山下:そのクリーンエネルギーの水っぽいイメージのファサードライティングが1つの特徴でしたよね。中に入ってもらった方だけが気づく程度ですけど、ほんのちょっと光が水のような淡い青色がかった照明になっていて。
齋田さん:あとはこの場所が富山の街中のシンボル的な交差点の1つということもあって、交差点の風景づくりを考えたいということがありました。山下さんから提案いただいたのは毎回同じ光が見えるのではなくて、昼と夜、また四季ごとにも印象が変わってみえる光の演出で、年間を通して周りの景観に対して寄り添っていくというデザイン。建築ってずっとそこにある動かないものというイメージが強いので、光が時間や季節での「動き」の概念を建物に与えてくれたっていうのはすごく面白いと思いました。
山下: 今回は内装も含めて光のデザインをさせてもらえたので、いろんな挑戦ができたと思います。例えば休憩所の光壁がその1つ。急速充電と言っても30分くらいはかかるので、その間にゆったり過ごしてもらうための場所がここ。落ち着いた光の演出にしたいけれど、暗すぎると本を読んだりできないので、それなりの明るさは必要で…という中で、奥側に和紙の光壁を作って、そこから和紙を通した柔らかな光を取り入れることで空間に印象のある光を作ったんです。
齋田さん:この部屋、天井にはまったく照明器具がないんですよね。さっき言った「本来照明器具がなければない方が嬉しいよね」っていう純粋な空間の感じをすごく尊重してくださって、大きな和紙の光と、吹き抜けの反対側にある斜めの光、デザインとして特徴になっている光の要素だけがそのまんま環境を照らしている光になっていて、すごく設計者の意図に寄り添ってくださっているなあと。我々としても良かったですし、光壁の和紙デザイナーさんもすごく褒めてくださいました。
EVステーションの休憩室・和紙を用いた光壁
共通するのは徹底した現場主義
齋田さん:建築の外と内を一緒に考えるうえで、いっぺん現地を見て考えるという手間がどうしても必要になってくるんですよね。山下さんは普段東京なので、手間をかけてすみませんと思っているんですが、やっぱり現地を見た上で考えられるアイデアってあると思うんです。「消滅集落のオーベルジュ」は家の光1つないような山奥の敷地で、周りからどういうふうに見えるのかも考えてくださって、来ていただけてすごく良かったです。
齋田さんと山下が手掛けた「消滅集落のオーベルジュ」
山下:そうですね。工事関係者の方とも顔を合わせて話をしておかないとどうしても誤解が生まれたりしてしまうので、その目的もあります。建築家と照明デザイナーだけで話しているだけではダメなことがいっぱいあって、そこは建築家の意図を照明の視点で伝えていくことがけっこう電気工事をする方たちにはポイントなのかなと思っています。話が前後しますけど、EVステーションはもともとあった建物のリノベーション案件でもあったので、わからないことも多かったんですよね。半分新築、半分リノベーションっていう感じで、取り合いの関係で結構見なければいけないところがあったので、現場に入っているゼネコンさんやサブコンさんの話を伺いながら、どうやったら齋田さんの想いを具現化できるのかと考えました。照明は空間がいかにきれいに見せられるかっていうのを、当然建物の中に関しては考えますし、外とのつながりも重要になってくる。その両方をちゃんと見て考えるためには現地の明るさや太陽がどう動くのか、天候や季節の変化も含めてちゃんと体感するためにも絶対行かなきゃいけないと思っています。
齋田さん:そのフットワークに加え、富山に地縁があり現地の環境をわかってくださっていて、設計段階から話がしやすかったです。周りの環境と空間がどういう関わり方をしたら、この場所ならではの居場所をつくれるか考えるには、現地に足を運ぶのが一番ですね。
山下: この時はまだ何もなかったところに齋田さんと2人で突っ立って、どういう光の移ろいがあるのか、音とかを聞いて空間の時間軸を感じながらああだねこうだねって、一緒に考えましたよね。やっぱり現場からもらえる情報ってすごくあるので、そこに建築設計をされる方と一緒に行くというのはすごく重要だと思っています。
齋田さん:EVステーションでも建物の裏面の照明は隣接する民家に光が飛ばないように床面だけに光を落としたり、細かいところまで適材適所の光を選んでくれていますよね。
山下:齋田さんが挙げられたことに対しての回答を出すのがなんか楽しいっていうのがあるので、そういう意味では僕も学ばせてもらったことが多いなと思っています。
EVステーションの建物の裏手には、
高速道路用の照明器具を用いている
常に新たなチャレンジをプラス
山下:齋田さんは必ず1案件につき1つは新しいチャレンジをしてくるんですよね。それに対してこうしたらどう?というキャッチボールができることがすごく楽しいんです。
齋田さん:そういう意味では、木のパネルがたくさんぶら下がっているショールームもチャレンジの1つでしたね。天井の高い部屋に車を置くので、空間と車の光の演出を一緒にデザインしてあげる必要がありました。山下さんからは、1分という時間の中で少しずつ変化がある風景をつくる、揺らぎのある光のデザインの提案をもらいました。
齋田さん:これ、20本くらいある中の1本が赤くて、1本がオレンジで、1本が黄色で…っていう配色のバランスを保ったまま、色の場所が全体的に揺らいで見えるデザインなんですよね。パネルが光の色を受けて揺らぎを感じられて、光のベールで車の周りをふんわりと囲んでいるような空間が作れたのは、今回新しいかなと思っています。今回の建物は、木と和紙の2つの自然素材を使ったデザインなんですけど、どっちもそのテクスチャーを見せるために光を当てているというよりは、この建物自体に必要な灯りを素材のテクスチャーと光のデザインでつくることができたというのが、今回の山下さんとの成果かなと思っています。
山下: 結構細かいところまでもディテールがあるので、もともと齋田さんのパースに書いてある光の線をどう表現するのかが結構悩んだ部分でした。どういう器具を使えばいいのか、単なる蛍光灯じゃ無理だなっていうところで色々探しました。でも斜めだから余計に器具が隠しにくいよねとか、そういうこともあって齋田さんと内装屋さんとの調整をしたりね。光の揺らぎの部分でも齋田さんと僕とで実は意見が合わなかった部分がありましたよね。ここは交差点で人目に触れる場所なので僕はもっといろんな色を出してもいいかなって思ったりもしたんですけど、齋田さんはなるべく色は抑えたいっていうところで、やっぱり光をものとしては見せない建築空間に対するポリシーを持っていらっしゃるんだなと感じました。
点灯チェック段階のカラフルなライティング案
齋田さん:山下さんは設計段階だけでなく、ライティングの最終調整でも現場に来てくださることが多く、もう1回実際に現場を見ながらこうした方がいいんじゃないのっていうディスカッションができるので、その場所ならではのデザインを探し当てられる成果につながっているのかなという気がしています。だから今みたいな話はおもしろかった。こういう色もできるんだけど実際どういう色がいいんだろうっていうのを山下さんも現地で考えてくださった上で提案としてまたもらえるので、いい答えに辿り着ける要因となっているのかな、と思いました。担当者の出張が多いっていうのはタカショーグループさんとしてはどうなのかと心配になりますけど、このフットワークの軽さにはすごく助けられています。
山下:そこは大丈夫です(笑)。齋田さんの屋外の特徴っていうのも結構ありますよね。特に植栽の入れ方が今回特徴的だなと思ったんです。環境に配慮した水や自然といったキーワードから、緑化も含めた設計になっている。そのあたりって齋田さんの設計意図にあったんでしょうか?
齋田さん:そうですね。富山県は広いんですけど、街の部分ってごく一部。大部分は自然豊かな場所で暮らしています。その自然豊かな姿とEVという未来の車の姿がどう融合していくのかを示す場所になればいいなという風景づくりみたいなのがテーマの1つとしてあったので、広い意味での富山の自然を感じてもらえるよう緑を取り入れました。その中で車がどう見えるのかっていうのを感じてもらいたいですね。
山下:後ろにある電気屋さんの建物が夜遅くまで明るいので、消灯後に植栽の影が浮かび上がるのが、調整の時に美しいなと思ったんです。ある意味劇場的な感じを日常のワンシーンの中に作る場所が、EVステーションっていうこれからの未来を感じられる場所にある。まさにこれは齋田さんのシンボリックなものかなと感じました。
EVステーションの屋外に取り入れられた樹木とライトアップ
齋田さん:朝は通勤でスピードを出してこの前を通っていても、帰りは少しゆとりを持って運転している人が多いようです。実際、昼間と夕方の印象が全然違うっていうのはみなさん体感してくださっていて、夜の照明込みの姿が好きだと言ってくださる方が多いので、頑張って取り組んでよかったなと思っています。
山下: それは何よりです。僕は日頃から設計される方が完成をどこにもっていきたいのかっていう意図を大事にしていて、設計者の方を通してお施主さんまでの直線上にある意図や想いっていうものをちゃんと拾えているかというのをすごく意識して、確認もするようにしています。光として明るければいいわけでもないし、暗すぎてもダメだし、そのあたりのメリハリというのは大事にしながら、設計される方のイメージを僕がちゃんと理解しなきゃいけないので、さっきの「照明器具はいらない」っていうのはまさにその考え方に近いところがあって、EVステーションではあまり器具を目立たせないことを意識しました。そのあたり、齋田さんからはどう見えていますか?
齋田さん:現場ごとに、常にしっかりと意図を汲み取った上で照明を提案してくれていると思っています。タカショーグループさんのエクステリアの技術と山下さんのライティングの知識が一緒になった提案が活きるような仕事でまたご一緒できたら、さらに山下さんのよさを体験できる空間が一緒に作れるのかなと期待しています。
山下: 今のタカショーデジテックにいることで使えるリソースっていうのも結構幅があるなと思っていますし、建材と組み合わせた新しいことも提案できると思っています。齋田さんってあんまり人工物や既製品を使いたがらないというか独自のポリシーがありますけど、アレンジすればこう使えるよという部分までいけるといいなと。例えばタカショー建材ってこんな使い方できるんだなっていうところまでいけるとおもしろいし、新しい照明自体を作るってところまでいっちゃってもいいんだろうなと思っていたりします。今後ともどうぞよろしくお願いします。
〈齋田武亨さんプロフィール〉
建築家。茨城県出身。東海大学大学院修了後、隈研吾建築都市設計事務所設計室長としてTOYAMAキラリの設計監理担当を期に、富山市に事務所を開設。
設計監理担当(隈研吾建築都市設計事務所での業務)
富山クリエイティブ専門学校 非常勤講師
Credit
照明ディレクター:山下匡紀 / MASAKI YAMASHITA
株式会社タカショーデジテック Creative Lab.
企画グループ ライティングデザインチーム
武蔵野美術大学 非常勤講師
富山市景観まちづくりアドバイザー
2015年度グッドデザイン賞 復興デザイン賞受賞
2018年度グッドデザイン賞ベスト100 受賞
2022年度日本空間デザイン賞 LongList(入選)
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場所だけでなく背景までを考えた建築と光。空間と環境を高める光の価値とはどういうものか、光の可能性について改めて考える機会になった対談でした。今後もさまざまな形で光を効果的に取り入れた設計に取り組んでいきます。どうぞご期待ください。
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