日本サインデザイン協会(SDA)の60周年を記念して開催された「大サイン展」。名だたるサイン関連企業が集結したこの展示会に、私たちタカショーデジテックは和歌山発祥の企業として、和歌山の地で育まれた伝統技術と最先端テクノロジーを組み合わせたサインを出展しました。LEDサインの表現に、職人技術である「紀州漆器」の漆をどのように取り入れていったのか、またなぜ漆を用いることにしたのか。本記事では、その取り組みの全容をご紹介します。
なぜ「漆」を組み合わせたのか
すべての始まりは、SDAの地区理事を務められている(株)マイサの加藤 美香社長からの一本の連絡でした。長年のお付き合いのある担当者から「SDA60周年を記念した大サイン展を開催するので、協賛として出展してみませんか?」とお声がけをいただいたことが、このプロジェクトの出発点です。サインデザインに携わるデザイナーや関連企業が一堂に会する大サイン展は、業界を代表する名だたる企業が参加する規模の大きな展示会です。

そのような場に臨むにあたって求められたのは「今までにない表現や、可能性ベースのサイン開発をしてほしい」という、答えが定まっていないものでした。そのため、どういった展示にするのかという方向性を定めるところからのスタートになりました。「タカショーデジテック」として出展するにあたり、地元・和歌山が誇る伝統産業「紀州漆器」に着目しました。タカショーデジテックがこれまでLEDサインに用いてきたアクリル素材と、漆を組み合わせる。一見すると相性が想像しにくい素材同士の融合は、まさに前例のない挑戦でした。大サイン展全体の共通要素である「矢印の形をしたサイン」をデザインの形に据えながら、パートナー企業とともに手探りでの開発が動き始めました。
和歌山の職人たちとの協働
大サイン展でタカショーデジテックが展示するサインは30種類。それらを「本漆サイン」、日本の伝統色を表現した「カシュー漆サイン」、そしてデザインで日本らしさを表現した「デザイナーズサイン」の3つの表現で制作することになりました。それぞれを得意とする企業や工房、職人の方々と協力して進めていくことになりましたが、そこに至るまでには、実現可能な工房・企業を探すという地道なプロセスがありました。
職人の技が宿る「本漆」での挑戦
まず、「本漆サイン」の開発にあたって協働が実現したのが「谷岡漆芸」さんです。日光東照宮や金閣寺など、国宝・重要文化財の修復実績を持つ漆芸の専門家です。「アクリルに本漆を塗る」という試みは、谷岡漆芸さんにとっても前例のない挑戦だったそう。開発が冬場に重なったことで漆が乾きにくいという条件が加わり、乾燥・定着の方法を探る試行錯誤が1ヶ月以上にわたって続きました。最終的には、この開発のために専用治具(じぐ)を自作することで工程を確立。矢印特有のエッジの多い形状への均一な漆乗せも、職人の技術によって実現されました。また、今回展示した本漆の中には、谷岡さんが独自に開発した塗り方「瑞雲(ずいうん)」の再現も取り入れており、本漆の伝統と技術が詰め込まれています。
伝統色を鮮やかに映し出す
「カシュー漆」の表現力
伝統色を表現した「カシュー漆サイン」では、日ごろサイン製造でも協力いただいている「町宗工芸」さんが塗装を担当してくれました。(株)マイサさんの方で選定していただいた日本の伝統色を、漆特有の塗り方の難しさというハードルを乗り越えて再現するために選ばれたのが、今回採用された「カシュー漆(カシュー)」。その名前にも含まれている通り、カシューナッツの殻から取れる油を主原料として作られている油性漆です。漆のような仕上がりを表現しながらも扱いやすいカシュー漆によって、計20種類もの伝統色がきれいなグラデーションで表現されました。
「デザイナーズサイン」で
挑んだサインのデザイン再現性
最後に「デザイナーズサイン」。こちらも塗装はカシュー漆の黒で統一されつつ、計5種類のデザインで表現されていますが、それぞれ日本の伝統に由来するデザインであったり、LEDサインでの表現の可能性に挑戦したデザインを再現しています。デザインには社内のプロジェクト関係メンバーだけでなく、飯塚 拓郎デザイナー、梅本幸治デザイナーにもデザイン協力していただき、それぞれ仕上げています。さらに近代螺鈿のデザインは日本サイン㈱の上尾 暖さんに手掛けていただいたりと、多くの想いがそれぞれに込められています。また通常のアクリルサインの素材だけでなく、協力会社に再現性を検討してもらいながら、3Dプリンターで高野山の伝統工芸「高野組子細工」をモチーフにした細かなデザインを再現したサインも製作しました。
工夫と技術が込められたデザイナーズサイン
素材ごとに選び抜かれた「色温度」
今回の大サイン展のサイン制作で全体をつうじてこだわったのが、色温度の選定です。素材ごとに適した光を細かく設定しており、本漆サインには漆本来の深みと艶を引き立てる3000K(電球色)を、デザイナーズサインにはろうそくの炎に近い1800Kの低色温度を採用。さらにはカシュー漆のグラデーションの色に合わせたLEDの発光色もそれぞれ選定されています。素材の表情を決めるのは色だけではなく、光も重要な要素であるという視点を軸に、光をデザインの構成要素の一つとして丁寧に設計することが、サイン全体の完成度につながりました。

紀州漆器・高野組子という和歌山の伝統技術と、現代のサイングラフィック、そして最先端のテクノロジー。これらが交わることで初めて生まれる表現を、30種類のサインとして形にしたのが本プロジェクトでした。大サイン展への出展は、業界全体へ向けた一つの問いかけでもあります。「モノづくり」の精度を磨き、それを「コトづくり」の文脈へとつなげていくこと。タカショーデジテックが歩んできた道と、これからめざす姿を、この展示に込めました。これからも、和歌山の地に根ざした技術と知見を活かしながら、サインの可能性を問い続けていきます。
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